研究内容
現在では、生体内でのエネルギー変換システムについての分子レベルでの研究が進み、 分子の構造変化における 電子状態の違いを利用してエネルギー変換が行われていることがわかってきています。 私はこれまでの研究方法を活用して、 生体機能の解明を目的とする研究を行っています。
ホタル生物発光
ホタルの発光はルシフェラーゼ酵素により引き起こされる化学反応で起こる生物発光の一種です。 基質であるホタルルシフェリンが酸化反応によりオキシルシフェリン励起状態になります。 そのオキシルシフェリンが基底状態になるときに発光することが知られています。 温度、溶媒のpH、ルシフェラーゼの一部が変化した変異体、金属イオンの混入などで、その発光色が変化しますが、 その発光過程はまだよくわかっていません。
私たちは、ホタルルシフェリンやオキシルシフェリンの共役酸・塩基に着目し、 基底状態と第一励起状態についての分子構造とエネルギー準位の計算を行いました。 その結果に基づき pHを変化させた吸収・発光スペクトルの帰属を行うことで、スペクトル中にはこれまで考えられていなかった 共役酸や共役塩基の 吸収や発光が現れているという情報を得ました。 今後は、理論計算だけでなく、実験的手法も用いて、生物発光研究を進めていきたいと考えています。
光合成反応中心における電荷移動
環境問題のなかで地球温暖化は最も懸念すべき問題の一つです。 植物による光合成は、この温暖化因子として知られている CO2を減少させる働きをするため、そのエネルギー変換機構について多くの研究がなされています。 光合成の初期段階の光化学反応の本質は、反応中心において太陽光を吸収した色素分子が電子励起され、 その電子励起エネルギーが電荷移動のエネルギーに変換されることにあります。 紅色光合成細菌Rhodobactor (Rb.) sphaeroidesの反応中心について電子状態計算による研究を行いました。 その結果、Rb.sphaeroides の反応中心を構成するポルフィリン環の長い直鎖は、 蛋白質の電荷の効果を細菌にとって都合よく取り入れる間接 的な役割と、 波動関数の重なりにより電荷移動しやすくする直接的な役割をもつことがわかりました。 ほかの光化学系反応中心のエネルギー変換機構についても 同じような役割を持っているのか調べていきたいと思っています。